最高裁判所第二小法廷 昭和45年(オ)879号 判決 1971年4月23日
主文
理由
上告代理人中村吉輝の上告理由第一点について、
所論は、上告人武田哲夫、同宇野嘉正の被上告人(同人は、上告人らの主張によれば、本件各約束手形の振出人の手形保証人である。)に対する手形上の請求権の消滅時効については、右各手形の押収が解かれた日をもつてその起算点とすべきである旨主張する。
しかし、右手形上の請求権の消滅時効は、満期の日からその進行を開始するものであることは、手形法の明定するところ(同法七〇条一項、三二条一項、七七条一項八号、三項)であつて、このことは、所論押収の事実があつても左右されるものではない。なお、原判示のように押収された手形の仮還付を受けることができた場合はもとより、手形権利者が、手形を所持しないで手形債務者に対しその債務の履行につき裁判上の請求をなした場合も、右手形上の請求権の時効中断の効力は認められるのである(最高裁判所昭和三七年(オ)第五二二号、同三九年一一月二四日第三小法廷判決、民集一八巻九号一九五二頁参照)から、もともと、手形が押収されていたため呈示できなかつたとしても、消滅時効の進行が停止される筋合ではないのである。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することはできない。
同第二点について。
手形法八五条の利得償還請求権の消滅時効期間は五年であると解すべきことは、当裁判所の判例(最高裁判所昭和四〇年(オ)第九一二号、同四二年三月三一日第二小法廷判決、民集二一巻二号四八三頁)とするところであり、いまこれを変更すべきものとは認められない。論旨は、右と異なる独自の見解に立つものであつて、採ることができない。
同第三点について。
所論の点に関する原審の判断は、是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。
同第四点について。
所論の採用しえないことは、右第一点ないし第三点について説示したとおりである。
同第五点について。
上告人発坂務が、原審において、所論時効の中断に関する主張をしたものとは認められない。それゆえ、論旨は、採用のかぎりでない。
(裁判長裁判官 小川信雄 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一 裁判官 岡原昌男)